ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー   ブレイディみかこ

人種も貧富の差もごちゃまぜの元底辺中学校に通い始めたぼく。人種差別丸出しの移民の子、アフリカからきたばかりの少女やジェンダーに悩むサッカー小僧……。まるで世界の縮図のようなこの学校では、いろいろあって当たり前、でも、みんなぼくの大切な友だちなんだ――。優等生のぼくとパンクな母ちゃんは、ともに考え、ともに悩み、毎日を乗り越えていく。最後はホロリと涙のこぼれる感動のリアルストーリー。

引用:新潮社文庫版

2021年は「多様性と調和」を基本コンセプトに掲げたオリンピック・パラリンピックが開催され、
多くの人に「多様性」を考えるきっかけを与えました。
2019年に出版され60万部のベストセラーになった本作は、そんな「多様性」が進む英国の中学生の日常生活を描くノンフィクションです。

現代社会で直面する様々な問題に思春期の少年が向き合い、母や父、友人たちとともに成長する姿に、共感と気づきを得たと大きな反響を呼びました。
完結編第2巻が9月に発売され、さらに注目が集まっています。
是非この機会に1巻から手に取ってみませんか。

英国の地方都市ブライトン在住の著者、保育士でありライターとしても活動する日本人の「母ちゃん」。
勤めていた銀行をリストラされ、大型ダンプの運転手になったアイルランド人の「父ちゃん」。
アイリッシュ&ジャパニーズ&ブリティッシュ&ヨーロピアン&アジアンというめちゃくちゃ長いアイデンティティ(本文より)を持つ2人の「息子」の中学校生活の最初の一年半が書き綴られています。

公立でも入学する小中学校を保護者が選べる英国で、市の人気ランキング1位のカトリック小学校から、「元」底辺中学校に入学した「息子」。

小学校では経験しなかった様々な問題にぶつかり、悩み、考える息子は、
「どうしてこういうことになるんだ」と母ちゃんに思いをぶつけます。
母ちゃんは11歳の息子と対等な人間として向き合い、話し合い、一緒に問題を考えます。

息子のまっすぐな感性や母ちゃんの社会への鋭い観察眼が会話から浮かび上がり、
2人の会話は母と子のものというより、ともに現代社会を生きていく同志のようです。
普段見えないものに気づかされ、励まされ、前を向く勇気を読者に与えてくれます。

楽しいことばかりではない学校生活で、あらゆることをスポンジのように吸収し、
「いろいろあって当たり前」と、現実に対処する術を身につけていく息子。
たくましく未来へと立ち向かってゆく姿は、本の表紙と同じような、明るい希望の光を放っています。

母ちゃんは保育所で働きながら、保育の現場から貧困問題、格差と分断の情景を描きだすライターとして活動しています。
日本より階級が明確である英国。
自らも移民で労働者階級である母ちゃんの目線で語られる、英国の教育事情、社会情勢。
日常生活に交えて語られるからこそリアルに、息子の中学校で起こる問題の根源が社会にあることが浮かび上がります。

軽やかで臨場感のある描写で、英国で今起きていることが遠い海の向こうの国の出来事とは感じさせません。
自分自身のこととして心を揺さぶられ、これからの世界について考えさせられます。

2年に及ぶパンデミックを経て、今、アフターコロナへと向かう新しい時代が幕を開けました。
どのように世界が変化していくか誰もが不安な中で、
今よりもっと、いい世界にしていこうよ!と
手を取って、呼吸を合わせて、一緒に走ってくれるような一冊です。