とり

大きな鳥にさらわれないよう 川上弘美

ー遠い未来、衰退の危機を認めた人類は、「母」のもと、それぞれの集団どうしを隔離する生活を選ぶ。異なる集団の人間が交雑することにより、新しい遺伝子を持ち、進化する可能性がある人間の誕生に賭けたー。かすかな希望を信じる人間の行く末を、さまざまな語りであらわす「新しい神話」。

引用:講談社文庫版

いつともどことも知れぬ場所で、女たちが連れ立って湯浴みに行くところから物語は始まる。女たちの他愛ないおしゃべりから、この街では人間が工場で作られていることが語られていく。

14の短編から成り立つ物語は、一編ずつ場所変え、話者を変える。作者は読者の手を取って、想像したことのない未来に連れて行ってくれる。
人類の進化を見守る「見守り」。特別な能力を持った人間を集めた「研究所」へ向かう女の子。植物と融合したような人間。この世界のシステムを作った男たち。いくつもの短編に存在しながら正体のわからない母たち。

読み進めるほどに、一見バラバラな話がつながり、物語の全容が明らかになっていく頃には未来の世界の住人になっている。

読み終わったらもう1度最初のページを開いてしまう。終わりが始まりとなる物語なのだ。

旅に出たい、と思う方にこの本をおすすめしたい。

この閉塞感から抜け出したい。違う場所の景色をを見たい。
実際に移動することに気を使う今、私たちを旅に連れて行ってくれるのは小説。作者の途方もない想像の世界へ旅に出よう。

舞台は荒唐無稽でありながら、著者独特のたおやかで柔らかな言葉使いは心地よく、読みやすい。文庫本一冊以上の価値がある、川上作品が初めての方にも是非手に取ってもらいたい一冊。

 

「今月の推し本」を担当させていただきます、ハルです。

新しい生活形式での新年度が始まり、半月が過ぎようとしています。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
桜の花が散るとそれが合図のように新緑が芽吹きはじめ、植物の発するエネルギーで空気が甘く濃くなるこの季節。

さあ外へ出かけよう!と言いたいところですが、そうもいかないこのご時世。
ぜひ本を手に取ってみてください。ベランダに出て光を浴びながら「日光浴読書」はどうでしょう?日光と知識を同時に吸収して、気分が変わりますよ。

もちろん、マルベリーでもテラス席をご用意してみなさまをお待ちしています。