ジヴェルニーの食卓
原田マハ

モネ、マティス、ドガ、セザンヌ。時に異端視され、時に嘲笑されながらも新時代を切り拓いた四人の美の巨匠たちが、今、鮮やかに蘇る。語り手は、彼らの人生と交わった女性たち。助手、ライバル、画材屋の娘、義理の娘――彼女たちが目にした、美と愛を求める闘いとは。珠玉のアートストーリー四編。

引用:集英社文庫

この度の推し本でご紹介するのは、「ジヴェルニーの食卓」。
作者は人気作家の原田マハさんです。
テレビドラマ化された「旅屋おかえり」、映画化された「総理の夫」、「キネマの神様」など作品が数多く映像化されています。

ほろっとして読後に温かい気持ちになる、エンターテーメント色の強い小説が多いですが、
原田マハさんは「アート」をテーマにした小説をひとつのジャンルとして確立しています。

博物館・美術館などの、展覧会の企画・構成・運営などをつかさどる専門職、キュレーターの経歴の持ち主である原田マハさん。
ピカソ、アンリ・ルソー、ゴッホ、ゴーギャンなどの著名画家をテーマとした小説、美術館の創立や存続の危機が物語の核となる史実を基にしたフィクション。
美術の造詣の深さ、美術への愛情、そして想像力で「アート小説」を何冊も世に送り出しています。

「ジヴェルニーの食卓」は美術や絵画に詳しくない人でも、一度は目にしたことのある名画の芸術家達の人生が描かれる短編集です。

表題作の「ジヴェルニーの食卓」は「睡蓮」や「日傘をさす女」で有名なクロード・モネの晩年が、義理の娘ブランシュの目線で語られます。
夜明け前に窓を開け、その日の天候を確認するブランシュ。
好天を予感すれば、義理の父であるモネの朝食の準備のために生き生きと動き回る姿から物語は始まります。

11歳でモネと出会ってから、55歳の今まで、モネの良き助手であり続けたブランシュ。
すぐそばでモネの絵を見続けてきた少女は大人になり、結婚して一度は家を出ますが、夫が亡くなりモネの元へ戻り、80歳を迎えたモネの生活と創作を支えています。

モネが南仏の小さな村、ジヴェルニーに天地を見出してから38年。
画業と同じように庭造りを愛し、庭園を題材にした絵を次々と発表し印象派の創始者として名声を得ていくモネ。
自らの理想郷を作り上げ、ブランシュに支えられながら創作に取りくむモネの人生は、一見彼の描く絵のように輝いて見えます。

しかし、フランス国家に寄贈する契約を結んだ「蓮装飾画」の完成を前にしながら、両目を白内障におかされるモネ。絵筆を取れなくなる彼の姿は悲愴感にあふれます。
ブランシュの回想がモネの家庭人としての苦労、父親としての側面、それまでの人生が決して明るいばかりではなかったことを語ります。

美術史に残る芸術家というと、一般人とは全く違った人種のように感じてしまいます。
けれど彼らにも些細な日常があり、深い悲しみがあり、愛する人がいます。
そして作品への真摯な愛情、情熱があります。
作品が彼らの人生を映し出すからこそ、何年たっても人の心を打つのだということを「ジヴェルニーの食卓」は教えてくれます。

木々の緑の勢いが増し日に日に空気がみずみずしく、密度が濃く感じるこの季節。
春に新鮮な気持ちで始まった新生活もGWに緊張が途切れ、夏へ向かって気候も変化する時。
衣替えをはじめまた新たに仕切り直す季節となりました。

五月病とは言わないまでも、小さなことで落ち込んでしまうような気分の時。
仕事や学校に行くのが億劫な時。
開いてみた本のページがあなたの背中を押してくれることがあります。

世の中には様々な世界があり、その全てに精通している人はいません。
自分の知らない世界を見せてくれる本に出会い、
自分の知らない世界を知る勇気がわいてくる瞬間。
その瞬間は光の画家と呼ばれたモネの絵のように輝き、あなたの人生を照らすことでしょう。

本を読んでいる最中にも、作中に登場する作品がどんな絵なのか見てみたくなることうけ合いの
「ジヴェルニーの食卓」。
この本をきっかけに、美術館に足を運ぶことになるかもしれません。

マルベリーフィールドでは「ジヴェルニーの食卓」をはじめ、
原田マハさんの小説を用意して、皆様をお待ちしています。
小さな一歩を踏み出す勇気をくれる一冊と、出会えるブックカフェでありたいです。