先日、大好評のうちに終えた「大人の教養講座 東京田舎暮らし」。
多摩地域の誇る養蜂家のお二人、アンドファームユギの長谷さん・みつばちファームの羅久井さんを招いたトークイベントの様子をレポートします。

■ 令和の田舎暮らしとは

まずは田舎暮らしの話を長谷さんから紹介。

「最初に知ってほしいのは、”田舎暮らし”はとても難しいということ。インフラのない山奥で自給自足するとなると『水が出ない』と言っても誰も助けてくれないし、介護サービスがあるわけでもない。そういう環境で生きていく覚悟が必要になります」

「それでも、田舎暮らしに憧れる人はいて、最近はそんな体験ができる環境も整ってきています。最初から土地を持つと近隣との兼ね合いや自身が亡くなった後の財産処分等が課題になるので、まずは土地を所有せずに始められるといいですね」

■ 都市近郊農業の特徴

そして、長谷さんがアンドファームユギで営む都市近郊農業の特徴を紹介いただきました。

「自分たちのやっている都市近郊農業(≠都市農業)は大きな特徴が3つあります。

  1. 都市インフラ。水道や病院が近くにあります。
  2. 自然。原生林ではないけど少し残ってます。
  3. 人が集まれる。何かをしようとしたときに、人に集まってもらえるのはありがたい。

このバランスがいい。

そういう意味で、『暮らしの中でちょっと田舎暮らし』をしたい人向けな都市近郊農業はこれから注目されるかもしれないですね。
そんな都市近郊農業のいいところは、ズバリ『コミュニティ』。地縁ではなく、SNSでつながって『ちょっと遊びに』くらいの関係性が築けるようになってきた。年齢や職業を問わずに集まれるので、うちでは親戚みたいな付き合いになっています」

「最近は、“令和の田舎暮らし”ともいえるCSAという取り組みをはじめています。『誰かと契約する』のではなく『みんなで農場を営む』という関わり方で1980年代にアメリカではじまりました。例えばみんなで1つの畑を耕したり、季節に因んだイベントをしたりします。CSAは一般に農業に対する取り組みですが、僕はこれはハチミツ(養蜂業)でもできると思っています」

「養蜂は周りの環境がとても大切で、植物に必要な太陽と水、自然の恵みがないと花の蜜は採れません。例えばミツバチファームさんの場合は4トンくらいのハチミツの収穫量があると聞きました。量は異なりますが、それはうちも同じです。養蜂によるハチミツ生産は、多量の花の蜜を自然から引っこ抜いているとも言えます。これだけの生産量を支える花の蜜をつくるのにどれだけの資源が必要かを考えると、えらいことです。養蜂は環境に優しいといわれることもありますが、実際は自然に対する負荷も相当に高いと考えています。なので、自分たちも自然を増やしていく必要があります。沢山の花がなければ養蜂は続けられなくなってしまう。そういったリアルな自然と向き合う場面が見られる場所なので、ぜひ養蜂場に遊びにきてください」

■ みつばちファームの話

続いて、みつばちファームの羅久井さんからも自己紹介をいただきました。

「私は農大出身で、野菜の流通に10年くらい関わってきました。そこから八百屋へ。そして里山への興味から林業、の仕事を探したが東京では間に合っていた。そこで『林業の課題は』と聞いてみたら『流通』と。木をたくさん流通させるには住宅だ、と工務店に行きました。そこで、東京の木で家をつくってました。働く間に自分でも多摩の木で一軒家を建ててみたりして」

「その住宅のことから床のメンテナンスで『蜜蝋ワックス』に出会いまして。『これを自分でつくってみたい』と調べてあきる野にみつばちファームがあることを知り、訪ねてみたら縁があって入ることになりました」

「なので、自分は養蜂がメインというより、東京というすごいシステムに着目しています。山から川が生まれ、流れてくる過程で里山が形成され都市ができ東京湾へ。そのすごさの源泉は自然。その自然の中でもここあきる野の土地は蜜源であることが売りなのだと思い、関わるようになりました。給料は下がっちゃいましたけどね」

「でも自分が働きながら、この土地は4~5トンのハチミツが獲れるくらい豊かだけど、それはあまり知られていない、意識されていないことだと感じていて。それを広めていきながら、自分たちの土地で長谷さんのCSAの取り組みなんかもできて、みなさんもちょうどいい田舎暮らしを実現できたらいいのかなと、時間はかかるけどそれぞれがおいしいハチミツづくりに関わっている実感を得られるような動きができたら嬉しいと思い、みつばちファームで働いています」

「そんなみつばちファームの代表を務める犬飼さんは、いいハチミツが取れる場所をよく知っている。昔はそういうポイントをいかに見つけてくるか、というのが養蜂家の仕事でした」

■ 質問大会

そんな2人の取り組みの紹介を聞いて、今度は参加者のみなさんからの質問タイム。

ー ハチミツを販売するにあたり気を付けていることは?
「ハチミツを一般的に言われる『おいしいですよ』で紹介しても売れません。そのハチミツでどういう価値を提供するのか、が大切だと思っています。機能や性能面から言えば、香りが飛ばないよう加熱しないとか、あとどんな容器に入れるのかも。例えばガラス瓶は透明度が高く、ろ過でこしきれなかった不純物を大きく見せてしまう。また密閉度が高いため変質にくく、サスティナビリティが取り上げられるご時世でリサイクル性に優れるという特徴があります。ガラス瓶に蜂蜜を入れるという些細なことでも、自信があるからできることであり蜂蜜の魅力を表すことだと考えています」

ー 長谷さんと養蜂のはじまりは?
「大学時代にミツバチ研究会というサークルに入ったことがきっかけでした。声をかけられた先輩についていったら、そこがこのサークルだったという安直なものでした」

ー マルベリーフィールドと重ねる価値は?
「循環ができたらいいですね。ハチミツをつくる場があり、こうして講座ができ、一緒に見学に行くイベントにつながり、養蜂の体験までできる。そして自分が関わったハチミツを食べる、とか連続した楽しみにつなげていけると、顔を合わせるうちに友だちもでき、物語ができて発信もしやすくなっていくのではないかなと」

ー 長谷さんのターニングポイントは?
「いざ蜂蜜の販売を始めて『八王子のハチミツですよ』と声をかけても売れませんでした。売上が振るわない期間が長くなるにつれてお金がなくなりマジで困りました。これがターニングポイントです。結局、自分のしていることが『自分ごとになっているかどうか』ではないですかね。手を抜こうと思えばできなくもないけれど、自分のつくるものは自分や家族も食べる物なので、妥協はできません。なのでその価値をどう伝えるかを考えました」
「知ってもらうために自分から飛び込むこと。商品を知ってくれている人を増やすことって大切だなと思います」

ー ハチミツの付加価値の根拠は?
「数値による根拠も大切ですが、製法やストーリーをはじめとした手に取る方が感じる情緒的価値が付加価値の源泉であることも重要です。『不安を煽ること(ミツバチがいなくなる説)』や『安心感を装う(非加熱)伝え方』はよくないと思っています」

ー 実際今売れているなら、新しく販路を考えても売るものがないのでは?
「最終的に売るものがなくなる、“売り切れ御免”の状態を目指しています」

ー ミツバチの箱オーナーという関わり方はできるのか?
「ミツバチは家畜に分類され、習熟度の低い方による個別管理は家畜衛生的な観点で懸念する点があります。ただ養蜂体験と並行して収穫量と飼っている箱の数から換算した“オーナー巣箱から採れた蜂蜜”を分配する形はできるかもしれないですね」

ー 養蜂で大切にしていることは?
「『後ろ指さされるような商いはしない』ことと、『返ってこなくてもいいことを大切にできるかどうか』ですかね。何年かそんな付き合いをしているうちに、自分ももらっているものがたくさんあると思っています」

■ 最後に

そんな質問大会を経て、「次は養蜂場に見学に行ってみよう」と話をしながら今回の教養講座は終了。
東京の都市近郊農業と関わりながらの田舎暮らし、興味のある方はどうぞアンドファームユギやみつばちファームを訪れてみてくださいね。

今回登壇いただいたアンドファームユギの長谷さん、みつばちファームの羅久井さん、どうもありがとうございました!